ランチェスター戦略は「強いものが勝つ」という、ごく当たり前の戦略です。
しかしこれが奥深いのです。
ランチェスターの第一法則
一騎打ち戦、局地戦、接近戦の原始的な戦闘の場合
戦闘力 = 武器効率 × 兵力数
織田信長が最新兵器の鉄砲で勝利したことも、豊臣秀吉が敵を圧倒的に上回る兵力を用いて勝利したことも
当たり前だということです。
ランチェスターの第二法則
確率戦、広域戦、遠隔戦の近代的な戦闘の場合
戦闘力 = 武器効率 × 兵力数の2乗
兵力数が2乗で影響しますので、このような戦いの場合、“兵力数”がものを言うということです。
具体的な例で試してみます。
ランチェスター第一法則で戦う場合
Aチーム5人、Bチーム3人だったとします。武器効率が同じだとすると、
Aチームの勝ちであり、生存者は2人となります。
ランチェスター第二法則で戦う場合は
5の2乗-3の2乗=25-9=16 √16=4 となり、Aチームの勝ちとなり
生存者は4人となります。
ビジネスでは“武器効率”は何と置き変えられるでしょうか?
”武器効率”は、技術開発力、営業力、ブランド力、情報力、アフターサービス力、従業員モチベーション
“兵力数”は、工場の生産力、店舗の数、営業マンの数、財務力、販売網の数となります。
この法則からランチェスター戦略の2つの戦略が作られました。
○ 弱者の戦略
弱者の基本戦略は「差別化戦略」となります。第一法則で戦います。
戦術① 一点集中主義
量的に優位になるために経営資源を1点に集中します。
集中するものは、事業、製品、地域、販売チャネル、顧客層の何かとなります。
ここで注意していただきたいのは、「量的に優位になるため」という部分です。
集中するだけではダメで、量的に優位になり100戦100勝を目指すということです。
戦術② 局地戦
地域、事業領域などの営業範囲を限定する
戦術③ 接近戦
顧客に直接販売をする。間接販売の形を取っている企業でも顧客を直接訪問する。
戦術④ 一騎打ち戦
競合数の少ない場面を重視する。1社独占の地域や顧客を狙う。
戦術⑤ 陽動作戦
ゲリラ、奇襲戦法。ライバルの手の内を探り、自社の手の内は探られないようにする。
ライバルがやれない、やりたくないことをやる。
陽動作戦は本質ではありませんが、場合によっては使うことが出来るものです。
○ 強者の戦略
強者の基本戦略は「ミート戦略」となります。第二法則で戦います。
ミート戦略とは弱者の差別化を封じ込める同質化戦略です。弱者の差別化を真似て意味の無いものにする戦略です。
戦術① 総合主義
企業の総合力で戦う。事業部門間の相乗効果を狙う。物量戦。最大店を地域一番立地につくる。
戦術② 広域戦
地域、事業領域を限定しない。グローバル戦略。
戦術③ 遠隔戦
間接販売。広報・広告で消費者やエンドユーザーの知名度・高感度を高め指名買いを促進させる。
戦術④ 確率戦
競合数の多い場面を重視する。製品のフルライン化、販売チャネルの重視化。多少の共食いは覚悟して弱者のつけいる隙をなくす。
戦術⑤ 誘導戦
先手必勝。おびき出し作戦。
ランチェスター戦略が奥深いのは、基本的に“強いものが勝つ”といっているのですが、
一点集中主義により部分的に強い立場になることで弱者でも勝てることを示してくれています。
小さな市場で一番になり、その影響範囲を広げていくことを示しています。
そして強者はミート戦略できますので、真似されない戦略が重要になってきます。
「小」が勝ったという事例の代表格は、織田信長ではないでしょうか。
織田信長が、強敵今川義元を打ち破って戦国時代に名乗りをあげた桶狭間の戦い。
信長が選んだ戦場は、田楽狭間。義元の大軍が動きにくい窪地(局地戦)を戦場に選びました。
この時の戦力は、
総兵力 : 今川20,000 VS 織田3,000
田楽狭間 : 今川 300 VS 織田2,000
まさに電光石火で義元の首(一点集中)のみに集中して勝利を収めました。
織田信長だけはこの戦に勝つことをイメージ出来ていました。
その証拠に“情報”に重きを置いています。信長は軍議も開きませんでした。
これはスパイによる情報漏えいを防御する目的です。
そしてこの戦の一番手柄は義元の首を取ったものではなく、義元の所在を掴んだ“情報武将”梁田政綱であったことです。
絶対に勝てると思っていたかはわかりませんが、あの勝利の仕方は確実にイメージ出来ていたのでしょう。
そして信長はこの後の戦では、相手よりも優れた武器を意識しているのです。
※当時、ランチェスター戦略はありませんでしたので凄いとしか言いようがありません。